夜、戸締りをしていたときのことでした。
窓を確認していて、ふと目に入ったんです。
網戸にぴたっと張りついた、小さな影。
ヤモリでした。

内側から見ていたので、ちょうどおなかのほうが見えていて。
白っぽいお腹が、網戸にぺたっとくっついているんです。
「かわいーーー!!!」
隣にいた娘が、大興奮でした。

……え、かわいい?
正直、わたしはこれまでヤモリを「かわいい」と思ったことが、一度もありませんでした。
どちらかというと、ちょっと苦手な部類。
なのに、娘の一言でふと網戸を見つめ直してみたら。
たしかに、ちいさな手を網戸いっぱいに広げて、ぺたっと吸いついている姿は、なんだか一生懸命で。
かわいいって、こういうことか。
四十うん年生きてきて、初めての発見でした。
そういえば、と思い出したことがあります。
小学生のころのわたしも、ヤモリを見ては「えー!気持ちわるー!」なんて言っていた記憶があります。
娘とは逆ですが(笑)。
そんなとき、親がよく教えてくれました。
「ヤモリはね、家を守るって書いて『家守』。だから、来てくれるのは縁起がいいんだよ」
そう言われても、当時のわたしはいまいちピンときていなかったと思います。
だって、見た目はやっぱり苦手だったから。
でも、なぜかその言葉だけは、ずっと頭のどこかに残っていました。
そういえば、実家にはツバメも毎年やってきていました。
軒先に巣をつくって、ぴーぴー鳴くヒナたちを、親はいつも嬉しそうに眺めていて。
「家にツバメが来るのは、いいことなんだよー」
ヤモリのときと同じような顔で、そう言っていたのを覚えています。

今も毎年のようにツバメがくるようです。
そういえば、実家は今、シジュウカラの巣箱まで作っています。
山から遊びに来たシジュウカラが、その巣箱で子育てをしているそうで。
先日、ヒナが顔を出した写真を見せてもらいました。
思わず「福福してるなぁ」って言ってしまいました(笑)。
ヤモリも、ツバメも、シジュウカラも。
うちにやってくる生き物には、いつも「いいことなんだよ」って教えてくれる二人でした。
今思えば、あれって単なる言い伝えとか、そういうことだけじゃなかった気がします。
うちに来てくれるものは、なんでも歓迎する。
いつもニコニコしていた、あの親の姿勢そのものだったのかもしれません。
だから私も、親が教えてくれたように。
布団に入ってから、娘にそっと話しました。
「ヤモリが家に来てくれるのは、いいことなんだよー」

娘にとってのヤモリは、今のところ「かわいい生き物」。
わたしにとっては、実家の夏と、いつもニコニコしていた親の顔を思い出す、ちょっと懐かしい存在。
網戸の裏側にちいさな影をひとつ見つけただけなのに、思い出はどこまでもつながっていくんだなあと、そんなことを思った夜でした。
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